桜前線とともに
産卵にやってくる
紅色の「桜鯛」
春三月、南から桜便りが届く頃、
日本中は花見の話で盛りあがる。
実はこの時期、海の男達が心待ちしているのが
「魚島(うおじま)」と呼ばれる鯛の群れ。
春の兆しを感じ産卵のために
外洋から内海へ集まってくる鯛。
紅色に海を染めるこの光景こそが、
大漁の証しだ。 |
産卵前の最もおいしい時期が桜の季節と重なることから「桜鯛」と呼ばれるようになった。 |
とかく女性は美しいものと美味しいものに目がない。かくいう私もその一人だ。
「桜鯛、行く?」その言葉に二つ返事でとびついたのは、桜鯛の何とも優雅な名前とピンク色したその姿形に前々からひかれていたことに他ならない。
昔から「鯛は大位(たい)なり」とも「鯛は海魚の長」ともいわれているが、色の美しい紅色の鯛は、おめでたいということでお祝いには欠かせないものだった。そういえば遠い昔、親戚や知人の冠婚に招かれた父の土産は、いつも尾頭付の鯛だった。ピンと長く伸びたヒレ、大きな頭、鮮やかなピンク色の張りのあるその体は折り箱を一匹で占領し、決してうれしいとはいえないこの土産をながめながら、子供なりに否応なく悟ったものだった。日本の儀礼に欠かすことのできない魚は鯛なんだと。あれから幾年か年を重ね、大人になった今もなぜだか鯛を崇拝してしまっている自分がいる。 |
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「花は桜木、魚は鯛」
古くから伝わるこの歌に桜鯛を
特別視する日本人のセンチメンタリズムが
すべて現れていると思うのは
私だけなんだろうか。 |
冬は深海にいて余り餌をとらず冬眠に入っている鯛が、四月の桜咲く頃、産卵のために近海に近づく。明石沖には産卵に恰好な砂の浅瀬「鹿の瀬」があり、急潮の明石海峡へ大群となって乗り込んでくるのだ。
「外洋から内海へ、わずか3.8km。明石海峡海域を泳ぎ渡る鯛は類いまれな運動量で身がしまり脂も乗っている。“鹿の瀬”には、いろんな魚が集まり餌になるプランクトンもいっぱいとくれば、美味しい鯛が獲れない訳がない」と先の山嵜さん。
シーズンになると明石浦漁協には、その名声を聞きつけ、日本一の鯛を求め、有名料亭や名うての料理人がやってくるそうだ。
鯛が初めて文献に登場したのは「古事記」、古代朝廷に献上され、江戸の将軍様にも愛された。時代は流れても、魚の王として尊ばれる、日本の鯛神話は、そうそうくずれそうにもない。
春の訪れを祝いながら、目と舌でじっくりと桜鯛を味わってみたいものだ。 |
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雄大なアーチを描く明石海峡大橋。海と橋、昼夜を問わず美しい明石、神戸の町並が旅心をそそる。 |
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