和食の作法
新世紀最初の特集は、あじかんの
原点でもある「玉子」です。
1個の玉子に秘められた栄養の
豊かさ、料理の奥深さ―。
玉子の魅力をきっと
再認識されることでしょう。
栄養価値はほぼ満点


温故知新 江戸時代の玉子料理

 玉子はよく、「地上最大の栄養物」「完全栄養食品」と呼ばれます。タンパク質の含有量が群を抜いて多く、次いで脂質、リン・カルシウム・鉄等のミネラル類、ビタミンA・B1・B2・D等のビタミン類も豊富です。
1個の玉子の中に身体に必要不可欠な栄養素がギュッと凝縮されているわけで、「完全栄養食品」といった評価も大げさではありません。
 とりわけ玉子のタンパク質は、人間の体内で造ることのできない8種類の必須アミノ酸をすべて含んでいます。これらは身体を温め、血液の循環を促し、脳の働きを活発にするのに必要な栄養素でもあります。だから、休止状態の身体を活動状態にする朝食で、玉子焼や目玉焼等の玉子料理を食べるのは大変理にかなっているのです。

     古いものには案外、新しいものを見い出すヒントがあるものです。
 たとえば江戸時代の『玉子百珍(万宝料理秘密箱)』や『合類日用料理抄』等の書物。今見ても、はっと驚く斬新なアイデアに満ちています。
 ここにご紹介した「利休卵」はその一例ですが、他にも「巻卵」のようなユニークな料理があります。これは薄焼き玉子に魚のすり身を塗り、くるくると巻いて干瓢で結び、醤油味のだし汁で煮含めたもの。干瓢の結び目がアクセントになり、切り口の白と黄色が美しく、おしゃれな一鉢になります。
 魚のすり身の代わりにカニ風味蒲鉾を使えば、より簡単。下味を付けた鶏の挽き肉なら、ご飯がすすむ一品になりそうです。
 また、大きな貝殻に、だし汁を加えた溶き玉子を流し、アワビの切り身やきくらげを入れてそのまま焼く「玉子貝焼」もおすすめです。一種の和風グラタンとも言えるこの料理。貝殻の代わりに耐熱性の小皿等を、アワビの代わりに今から旬を迎えるアサリ等を使えば、もっと気軽に楽しめます。
 それにしても、江戸時代の人々の発想の豊かさには、ただ舌を巻くばかりです。当時、大変貴重で高価だった玉子。滅多に手に入らないものをいかにおいしくいただくか・・・。『玉子百珍』等の書物は、食べ物を慈しむ江戸時代の人々の心、おいしさへの情熱を感じさせてくれます。
コレステロール上昇は誤解     アジアの料理にも注目!
 一方、コレステロールが玉子の弱点としてよくあげられますが、実際は玉子を食べても血中コレステロール値の上昇には、直結しないことが証明されています。
 むしろ卵黄に含まれる脂質の一種、レシチンには、血管壁にこびりついたコレステロールを溶かし、血流をスムーズにする働きがあるとされています。よってコレステロール云々は大きな誤解。他の食品と組み合わせ、バランスよく摂取すればよいのです。
 最近の学術的研究によると、殻の中で卵黄の位置を安定させるヒモ状のカラザには、ガン予防で注目されているシアル酸が含まれていることもわかっています。
 玉子を食べなかったり、必要以上に制限するのは、とてももったいないことと言えるでしょう。


     新しい玉子料理のヒントはアジアの料理にもありそうです。  韓国風玉子焼「ジョン」は、タレに漬けた牛肉とネギに、溶き玉子をかけて焼く料理。ボリュームがあり、これだけで十分メインディッシュになります。
 玉子をたれ(ソース)として使う料理にも挑戦したいもの。溶き玉子に刻んだねぎ、ニンニク、調味料(醤油・砂糖・サラダ油)を加え、軽く熱を通してトロッとさせ、蒸したナスにかけて食べる中華料理の「冷伴茄子(レンパンチェズ)」はいかがでしょう。今の季節なら、蒸したキャベツやブロッコリー、カリフラワー等にかけても合いそうです。
 ここに紹介した料理はほんの一例に過ぎません。8ページでは、新しい料理づくりにも役立つ、玉子料理の基本テクニックについてまとめました。ぜひ参考にして、オリジナリティあふれる料理を作ってみてください。
どこがどう違う多彩な玉子たち      
 ヨード入りやDHA入り等、店頭には実に多くの種類の玉子が並んでいます。それらの違いはどこにあるのでしょうか。
 簡単に分類すると、まず親鶏の品種に違いがあります。一般的なのは、白い玉子の白色レグホン種。赤い玉子の代表格、ロードアイランド・レッド種。ピンク系の玉子のゴトウ360という交配種です。意外なことに、親鶏の違いによる栄養成分の差はほとんどありません。
 次に飼育環境の違いです。1羽ずつケージに入れ、集卵を自動化した通常の「ケージ飼い」の他、鶏舎内を自由に動き回れる「平飼い」や昔ながらの「放し飼い」があります。「平飼い」「放し飼い」は人の手で玉子を拾い集めるため、割高になります。
 また、与える飼料によって分類されることもあります。これには通常の飼料とは別に海草を与え、ヨウ素を強化したもの、魚のDHAや緑茶のカテキン・各種ビタミン類を含ませたもの等があり、飼料の違いは、玉子の栄養価に反映されます。
 これら「親鶏の品種・飼育環境・飼料の違い」をうたったものが、さまざまな銘柄の玉子(いわゆるブランド玉子)になっているのです。
 その種類は増えるばかりですが、味覚的には目立った差はないようです。
 それよりも玉子の “味” に直結するのは鮮度。新鮮な玉子は卵白の気泡力が強く、熱を加えた時のふんわり感が豊かで、だし等の味をよく含みます。できるだけ産卵日の新しい新鮮な玉子を選ぶようにしましょう。
   
玉子ひとくち知識
玉子の保存法は?
玉子を冷蔵庫で保存する際には、必ずとがった方を下にして置くようにしてください。とがった方を上にして置くと、卵黄を支えるカラザがゆるみ、卵黄が殻にくっついてしまうことがあります。殻には無数の穴が空いていて、そこから菌に触れる場合があります。また、冷蔵庫内での置き場所にも要注意。ドア側の専用ポケットを利用しがちですが、開閉のたびに温度が変化したり、振動も加わるので、できるだけ使わないで、パックのまま奥の方に置きましょう。
「卵」と「玉子」の違いは?
「たまご」は「卵」と「玉子」の両方の漢字が当てられます。ちゃんとした決まりはないのですが、出版界等では主として、まだ殻の状態のたまごを「卵」、料理になってからのたまごを「玉子」と記す場合が多いようです。「卵」は学術的な意味で用いる場合にも使われます。ちなみに『膳』では「玉子」で統一表記しています。

栄養バツグンで、しかも経済的な玉子。
もっともっと食卓に取り入れたいものですね。
玉子料理のレパートリーが広がれば、登場回数も自然に増えるはず。
そこで玉子の“新しい味”にチャレンジしてみましょう!



野菜入り利休卵
「利休」と名のつく料理は胡麻を使ったもの。
栄養も風味も満点の一品です。

■材料(14cm×11cm流し函一台分)*写真は3人分
人参 1/4本
干し椎茸(戻したもの) 2枚
ゴボウ 1/3本
だし汁 1/2カップ
大さじ2
みりん 大さじ1
醤油 小さじ1
少々
玉子 4個
白ごま 1&1/2カップ
大さじ2
砂糖 小さじ1
薄口醤油 小さじ1
少々

■作り方

  1. 人参、干し椎茸、ゴボウは短い千切りにし、と一緒に鍋に入れて煮て、火が通 ったらそのまま冷まし、水気を絞っておく。
  2. ごまはきつね色に炒って、すり鉢でクリーム状になるまでよくすり、酒と溶きほぐした玉子を徐々に加えながらのばし、Bを加えて一度裏ごしする。
  3. 2に1を加えて全体を混ぜ、水でぬらした流し函に入れる。蒸気の上がった蒸し器に入れ、強火で1分蒸した後、弱めの中火で約10分蒸す。
  4. 蒸し上がったら、好みの大きさに切り分け、器に盛る。
蒸し時間は目安なので、時々様子を見ながら蒸して下さい。中心を押さえてみて弾力が出てきたらOK。

テゥルゥルバラド
(ゆで玉子のチリソース煮)
「テゥルゥル」は玉子、「バラド」は唐辛子のこと。
インドネシア料理です。

■材料(4人分)*写真は4人分

堅ゆで玉子

8個

赤唐辛子 4本
トマト 1個
赤ピーマン (大)1個
玉ネギ 1個

レモン汁

大さじ1

塩、砂糖

各小さじ1

揚げ油 適宜
サラダ油 大さじ3

■作り方

  1. ゆで玉子は殻をむいて水気を拭き取り、玉子を回しながら、包丁で全体に軽く切れ目を入れ、170℃の油で、全体がきつね色になるまで素揚げする。
  2. 赤唐辛子は種を除いて輪切りにし、軽くすりつぶす。トマトは湯むきしてみじん切りに。赤ピーマン、玉ネギはみじん切りにする。
  3. フライパンに油を熱し、唐辛子、赤ピーマン、玉ネギを香りが出るまで炒め、を加え、汁気 が飛ぶまで炒める。
  4. 3に水大さじ2を加えてゆるめ、1の玉子を加えてからめる。
玉子を転がしながらしっかり揚げると、ソースのからみがよくなります。
参考文献『アジアのお母さんの味』NHK出版



【焼く】
 例:玉子焼

器に玉子を割り入れ、軽く溶いて、調味料を加えただし汁と合わせます。
玉子を溶き過ぎないのがふっくら仕上げる第1のポイント。卵白と卵黄を箸で軽く2〜3回切る程度でok。ただし「薄焼き玉子」の場合は逆。玉子をよく溶きほぐし、卵液のコシを弱めると、薄くなめらかに仕上がります。
玉子焼き器(またはフライパン)を中火で十分に熱し、薄く油を引きます。
フライパンに卵液を付けた箸先を当て、ジューッと音がするぐらい熱しておくのが第2のポイント。焼きはじめる寸前に中火よりもやや強めにします。
卵液を少量流し入れ、手早く全体に広げます。フツフツとふくれてきたら、箸を刺して空気を抜きます。
玉子焼き器と箸をヒョイとあおるように動かしながら、向こう側から手前に向って、玉子を巻きます。
手前に巻き込んだ玉子を向こう側に滑らせます。滑らせる前に向こうに空いたスペースに薄く油を引いておくと、ひっつきが少なくなります。
手前に卵液を入れ、向こう側の巻いた玉子を持ち上げてその下にも流し入れ、上記の作業を繰り返します。好みの厚さになったところで出来あがり。
【蒸す】
 例:茶碗蒸し
溶き玉子にだし汁と調味料を加え、好みの味に整えます。
溶き玉子とだし汁の割合は、1:2〜3ぐらいに。だし汁の率が多いほど固まりにくく難しいのですが、柔らかく口当たりよく仕上がります。卵液はきちんと裏ごしして、キメを均一にし、泡を除いておくのがコツです。
器に鶏肉やエビ、椎茸、蒲鉾等の具材を入れ、卵液を静かに注ぎます。
蒸気のあがった蒸し器に入れ、濡れフキンをかけてフタをし、中火で15〜20分程度蒸します。竹ぐしを刺して澄んだ汁が出れば出来あがり。
  火加減には十分注意しましょう。火が強すぎるとスが入ってしまいます。
【ゆでる】
 例:ゆで玉子

鍋に玉子を入れ、玉子がすっかりかぶる程度の水を加え、中火にかけます。
冷蔵庫から出したての冷たい玉子は殻が割れやすいので、室温に戻しておくのがコツ。水に少量の塩と酢を加えておくと、割れても中身が出ません。
沸騰してきたら、火加減を調節し、フツフツと沸いているぐらいにします。ゆで加減はお好みで。「半熟」は沸騰してから6〜8分。「やや固めの半熟」は8〜10分。「固ゆで」は10〜12分です。
沸騰するまで箸で玉子をころがすと、卵黄が片寄らず真ん中にきて、きれいにゆで上がります。
冷水にとり、流水に2〜3分さらして冷ます。
自然に冷めるまでおいておくと卵黄のまわりが黒く変色しやすくなります。また、熱いうちに食べる時でも30秒くらい冷水にさらすと殻がむきやすくなります。
【揚げる】
 例:フライドエッグ
玉子を器に割り入れます。
ゆで玉子の時と同様、冷蔵庫から出したての冷たい玉子は室温に戻しておきます。
天ぷら鍋に深さ4cmぐらいまで油を入れ、180℃に熱します。
玉子を静かに滑らせるようにして入れます。広がった卵白をおたま杓子で寄せ集めながら、きつね色になるまで揚げます。揚がったらペーパータオルで油ぎりを。
油がはねないよう、玉子はできるだけ油面に近づけ、流し込むように入れるのがポイントです。
監修/フードコーディネーター 梶川 智代

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