ちゃたく
相性のいい湯飲みと茶托

文/高森寛子 絵/三好貴子




 文彦は、ときに自分でもうんざりするほどのこだわり性である。特に日々の暮らしの道具については、いい加減な妥協ができない。
 ―オフクロの遺伝かな―と思う。母は布きん一枚から家電製品まで、生活道具選びへの労を惜しまない人だった。毎日使うものこそ適当に決めたら後悔する、と気に入ったものが見付かるまで何ヵ月でも探し続けるのだ。
 中学生のころ、しょうゆ注ぎ探しに付き合ったことがあるが、あれは美しくない、これは使いにくそう、と何軒もの店を巡るしつこさに辟易し、以降、二度と母の買い物の誘いには乗らなかった。
 なのに、今の文彦の買い物のしかたは、まるで母と同じだ。このところの探し物は茶托。数ヵ月前、焼き物作家の個展で手に入れた、土物のふっくらとした大振りの湯飲み茶碗に似合うものが望みである。
 ―木目を生かした、豊かな感じの拭き漆のものがいいな―漠然とながら茶托のイメージは描けている。福島県の母の実家で、そんな茶托を使っていたような気もする。
 いつも文彦は、仕事鞄の中に問題の湯飲みを一つ入れて持ち歩いていた。これはという茶托に出合ったら、その上に置いて相性の善し悪しを見させてもらうためである。これも母がやっていた買い物法の一つだ。
 「これだっ!」
 ある日、通りすがりに入った木地師の個展会場で、ついに納得の一品と巡り合う。『栗ハツリ目茶托』という名が付いていた。こだわり性にとって堪えられない瞬間である。
 持ち帰った五枚の茶托すべてに湯飲みを載せてみる。その相性の善さに痛く感じ入った風なのは、妻や娘ではなく高校生の息子だった。
 ―ヤヤッ! 俺のこだわり性が、こいつにも伝わっているのか。苦労するぜ―文彦は、なんだかうれしかった。

拭き漆…漆を薄く塗り、拭き取ることを繰り返して、漆を染み込ませたもので、木目が生かされる技法。
高森寛子(たかもりひろこ)

婦人雑誌の編集者を経てエッセイストに。20年ほど前より使い手の立場で、伝統的な生活工芸品の作り手と使い手をつなぐ作業にたずさわる。「スペースたかもり」を主宰し、使い手としての発想からイベント・展示会などをプロデュースしている。
著書に「美しい日本の道具たち」(晶文社)、共著に「ほんものの漆器 買い方と使い方」(新潮社)がある。


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